社会の窓際から

暇を謳歌したい。

ダウナーな「テンション」

 

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 余暇を満喫する資質のない奴隷階級であるおれは、人にこき使われる宿命にある。人に時間の使い方をある程度制限してもらうことにより、茫漠とした退屈が軽減され、その分苦痛が減るからだ。また、現段階では金銭的危機に直面してはいないが、何らかの事業を起こす能力、あるいは一人で金を稼ぐ能力が欠落している以上、諸行無常の波にさらわれて夭逝しない限り、このままでは必ず不確かな未来のある時点で金銭的に逼迫することになる。

 

 つまり、これからの大まかなプランとしては、祖母の介護に全力を尽くしつつ、介護の間隙を縫って求職活動を行い、祖母が息を引き取り、自称僧侶集団が率いる俗悪教団から戒名という名の高額な霊感商品を受け取った後は、馬車馬のように働きつつ、試行錯誤しながら、余暇を悠然と満喫できる精神性の持ち主である有閑階級を志すことにする。

 

 そうと決まれば早速求職活動やさかい、ハローワークやさかい、と元気溌剌な関西人のように動き出すことができればいいのだけれど、強迫的に急いで職を見つける必要がなく、祖母の介護でガチガチに縛り付けられているおれは、まずは求職活動に必要なモノから揃えようと思う。なんとなれば、おれっちは求職活動に相応しい革靴やバッグを持っていない。カッターシャツも一枚しか持っていない。ネクタイも一本しか持っていない。黒の長靴下も一足しか持っていない。

 

 このように「持っていない、持っていない」と貪欲な物質主義者のように喚いていると、老子先生から「足るを知れよ、バーロー」とコナン風に諫められそうだが、確かに老子先生の言う通りで、求職活動のためだけならば、カッターシャツもネクタイも黒靴下も一つずつで十分かもしれないが、求職活動に相応しい革靴とバッグは持っていないし、それらは必要不可欠なものであるため購入するしかねぇ。そして、モノが一式揃えば、上手く自分を誤魔化し、士気を高め、アッパーなテンションで求職活動に臨むことができるかもしれない。

 

 まずはバッグだ。

 

 バッグを購入する前に、社会経験の乏しいおれは、カルト教団労働教に属していない健全な労働者として日々を送る友人からアドバイスを仰ぐことにした。

 

 その時点での手持ちのバッグは、吉田カバンが展開するポーターというブランドのユニオンというシリーズのデイバッグで、もうかれこれ12年ほど愛用している。

 

 あわよくば何も買わずに済まないだろうか、という必要なものを買おうとしない過度な節約という形での金銭的執着心に憑りつかれた凡夫のおれは「このバッグで面接に臨んでもいいかしらん」と質問してみたのだけれど、健全な労働者の友人曰く、担当面接官がガチガチの脳髄の持ち主であった場合、面接会場へのデイバックの持ち込みは面接官の逆鱗に触れ、一発KOの可能性が高まってしまうため、やめておきんさい、ということだった。

 

 必要なものを買おうとしない過度な節約という形での金銭的執着心の奴隷と成り果てたおれは「だがしかし、このデイバッグの色は黒、形状も上品であるし、フォーマルな場面においても不自然ではない。しかも12年も連れ添い、事あるごとに荷物運搬のために日々尽力してくれた大切な相棒である。人生の分岐点にもなりかねない重要な局面において、相棒を連れ添わないとは実にナンセンス。それに万が一、いや億が一、いや兆が一、内定が取れ、通勤するとなれば、とっさの介護のために、やはり両手が自由になるリュックの方がよかろうもん。そして、このデイバッグはユニオンシリーズ、ユニオン、つまり労働組合を意味し、健全な労働者には至極相応しいアイテムなのであーる」と反駁を試みたものの、「ごたごた屁理屈言うんじゃねぇよ、ゴミ野郎」と一蹴されてしまったため、素直にビジネスバックを買うことにした。

 

 そうしてビジネスバックを求めて、なんやかんやあり、てんやわんやしつつ、購入するに至ったのが、吉田カバンが展開するポーターというブランドのテンションというシリーズの3Wayビジネスバッグで、まずはアマゾンで目星をつけ、店舗に足を運び、直に製品を触って確認し、アマゾンで購入するという、まさに店舗殺しの買い方をしてしまったが、アマゾンポイントのことを考慮すると、2000円以上の値段の違いが出てしまい、その差異は無職で無力な凡夫の心を捉えるのに十分過ぎた。

 

 健全な労働者である友人からは「それなら面接の時も仕事の時も使えるから大丈夫っつたい」と熊本弁風に承認してもらい、祖母からは「使う頻度が高いものには物惜しみしたらあかへんど」という半遺言を授かったこともあって、少々値は張るが、購入に踏み切った。

 

 無論、現時点では使ったことがなく、当分使うことはないだろうけれど、ある種の覚悟のようなものにはなった。商品自体はとても良質で、個人的には気に入っているのだけど、それを使っている自分の姿を思い浮かべると、どよーんとした気持ちになった。

 

 「テンション」を購入してから1週間ほどが経つが、「テンション」を手に取る度にどよーんとした気持ちになる。

  

P.S.

どよよーん。